日本人は自国に対する誇りが薄い? 日本の素晴らしさについて「和の心」代表・葉室頼廣さんに聞いてみた

日本人なのに「日本」という国に誇りを持てない人は、きっとたくさんいるでしょう。

かく言う筆者もそのうちの1人。海外の人に日本を紹介しようとしても、「スシ、キモノ、マンガ……」とありきたりなことしか言えません。

叔父に春日大社の前宮司、祖父に下鴨神社の元宮司を持つ葉室頼廣さんも、10年ほど前までは日本のことをあまり知らない、ごく一般的な日本人でした。しかし、現在では日本文化を広める活動を精力的に行なうほど、日本の素晴らしさに陶酔しています。

葉室さんはどんなきっかけで日本の素晴らしさに気付いたのか、なぜ日本のことを広めようと思ったのか。活動の拠点である浄住寺に行き、聞いてみました。

葉室 頼廣(はむろ よりひろ)さん

1958年東京都生まれ。株式会社和の心・代表取締役。京都市西京区にある浄住寺を中心に、日本文化を広める活動をしている。代々神職を行なう葉室家に生まれ、春日大社の前宮司が叔父、下鴨神社の元宮司が祖父にあたる。

アメリカ人に気付かされた「日本人の心」

– 葉室さん、本日はどうぞよろしくお願いします。

はい、よろしくお願いします。

– 葉室さんのメインの活動は会社である「和の心」だと思うんですけど、改めてどんなことをされているのか教えてください。

日本に昔からある「日本人の心」をここ浄住寺から発信していく活動をしています。ご存知の通り、僕は「葉室」という家系(分家ですが)に生まれ、ありがたいことに浄住寺という歴史あるお寺とご縁がありますので。

具体的な取り組みとしては『和の素敵』というメディアで日本の文化や伝統工芸などを紹介したり、浄住寺で日本のことを気軽に学べるイベントを開催したりしています。

– 日本のことを広めようと、活動を始めたきっかけはなんだったんでしょう?

10年ほど前に父が預かっていた病院を一緒に辞めて、改めて健康について考えました。病気を治すことは重要だけど、病気にならないようにすることも大切だと思って、予防医学について考え始めるようになりました。

そのご縁でアメリカのクリニックに行かせていただいたんですけど、そのクリニックに「感謝」という文字が書かれていたんです。アメリカ人の先生に聞いてみたら、「この言葉は『いつもありがとう』という心を表すものなんですよ。不満ばっかり持つのではなくて、なんでも『ありがとう』って思っていれば、病気も治りやすくなりますよ」って。

それを聞いたときに「これって日本人の心ではないか! でも、日本にはその心はないではないか!」ってハッとしたんです。そこから気付きが徐々に始まり、日本について知れば知るほど、知らないことだらけだと思い知らされました。それで「このままではいけない! 日本のことをしっかり学んでいきたい!」と思って事業を始めたんです。

– 日本人ではなく、アメリカ人の方が日本人の心を知っていたわけですね。実際に事業をはじめてみて、どんな気付きがありましたか?

日本には様々な文化・芸術・工芸品などがありますが、日本人ってやっぱりそういうことが好きなんだよなと。普段は触れてないけれどすごく好きなんですよ。

だけど、敷居が高いなどのイメージがあってなかなかできないのです。着物を着てみたいけど、着方もよくわからないし、着ていく場所もない。変な着方をすれば怒られそうだし、恥もかきそう。そうやって身構えてしまう人が多い。

でも、そうではないのです。変な意味ではないですけど、着物ももちろん服なので、それぞれの人がこんな風に着たいなって、楽しくお洒落に来てくれればいいと思います。「着物はこう着なければ!」と難しく考えないでいいと思いますよ。

– 僕らはある種、間違った常識を持っているわけですね。

そもそも、着物は着るだけが全てではないんですよね。着物1反には蚕2000匹以上の糸が紡がれていて、十数人もの人が色んな工程を繰り返して、最後にはおばあちゃんが一所懸命機織っているのです。

そうした色んな人の想いや命がこもった着物は孫の代まで引き継がれて、最後には雑巾にもなる。そこには「モノを無駄にしない、大事にする」っていう日本の素晴らしい文化がやはりあるわけですよ。

そういう僕自身が学んだことも『和の素敵』で配信していって、堅苦しいイメージを少しでも払拭できればなと。

感謝があるから、当たり前に助け合える

– 日本人の心について掘り下げていきたんですけど、日本人の心って単に「みんなで仲良くしようよ」っていう集団主義ではないんですか?

違いますね。日本人が当たり前に持っている心って「ありがとう」っていう感謝なんですよ。その感謝は目に見えるものだけではなく、見えないものに対しても当てはまります。

そういう心を持っているからこそ、個々が当たり前に助け合おうとするし、大切にしようとするんです。近くの橋が壊れたらみんなが直そうとするし、野に咲く一輪の花も同じ生命を持つものとして大切にする。

– なるほど。その「ありがとう」という感謝の気持ちって、どこから生まれてきたんでしょう?

日本の地形や自然環境が影響していますね。日本は4方を海に囲まれた島国で、たくさんの山があるから、自然の循環を感じやすいんです。山からは川が流れ、川は海へと流れ着く。海へと流れ着いた水は雲を作り、やがて雨となり、山に降り注ぐ……という循環ですね。

そこから日本人には自然と共に生きている、つながりを持っているっていうありがたい想いが育まれてきたわけです。作物を育てるのにも自然の恵みが必要でしょ? だから自然に感謝するんです。

僕らの命だって何世代ものご先祖様のおかげで存在しているんです。いくつもの世代を遡れば、天皇陛下とのつながりだってあるかもしれない。みんな他人だけど、他人ではないのですよ。そういう思いがあるから、命を頂いたことに感謝して自分も他人もみんな大切にできるんです。

– すべてのヒト・モノ・コトは繋がっているからこそ、「大切にしよう」「ありがとう」っていう気持ちが生まれると。

そう。そこに海外の人たちが驚くんですよ。1800年代の中頃から日本文化が万博などで紹介され始めるんですけど、西洋人はひと目見ただけで、文化が違うことに気付く。

例えば、西洋人は花瓶にある花を描くけれど、日本人は野に咲く花を描くんです。西洋人は自分たちが自然を支配しているから、取ってきて美しい形を作ろうとする。それに対し、日本人はただ生きていることに美しさを感じるから、生きている姿をそのまま描く。

良いとか悪いとかではないけれど、明らかな文化の違いがある。そういう日本の美を見たときに、美しいと感じる西洋人ってたくさんいるんです。日本では当たり前にあるからこそ気付かないけれど、海外では素晴らしい文化だって評価されています。

日本に誇りを持てない若者

– 葉室さんは日本の素晴らしさを伝えていますが、僕らくらいの若者は「日本ってダメだよなぁ」と思ってしまうことが多くて……。

そうですよね。僕の息子も大学生のときに海外に行った経験から、「10カ国の人が集まると、僕以外のみんなは母国の自慢ができる」と話していました。今でも息子は日本の良さがよく分からない、って。

– それって何が原因なんでしょう?

やっぱり、教育の場がないことですよね。昔は3世帯が一緒に暮らしていたので、両親が働きに出ている間、祖父母が子ども(孫)の面倒を見てたんです。そこで彼らが自分の経験で得てきた、日本人の心を子どもに教えていました。

でも、戦後から家族のあり方も変わってきたし、学校でもあまり教えられなくなってしまっている。日本人の心を学ぶ場ってほとんどないんですよ。

– 教えられてこなかったから、僕ら若者世代は日本の心を知らないと。

そうですね。今の子どもたちって可哀想なんですよ。「最近の若者はああだ、こうだ」って大人やメディアから言われてしまう。でも、そうしてしまったのは僕らの世代なんですよ。

だからこそ、僕らがこれからの子どもたちのために何ができるかを考えて、行動していかなければって。僕は来年還暦なんですけれど、こうして今まで育ててきてもらったことに感謝して、少しずつ何か返していかなければって思うんです。

日本人のDNAは受け継がれている

– そういう使命感もあって、学びの場を作っているわけですね。日本の文化の素晴らしさって、実際どうやって伝えていくものなんでしょうか?

僕らも5年間色んなイベントを行ってきましたが、やっぱり「知りたい!」と思う人しか来ないのです。でも、興味のない人に無理に来てもらおう、知ってもらおうっていうつもりはなくて。そもそも興味のないこと、楽しくないことは誰もしたくないので。

だから、興味を持った方に来ていただいて、昔からの日本人の知恵の素晴らしさを話したり、「ありがとう」という気持ちを会話の中で伝えていくんです。すると、僕らの心には日本人のDNAがあるから、ちょっと扉が開いたりするんです。

– 日本人のDNA、ですか。

そう。ある幼稚園の話なんですけど、普段子どもたちってじっとできなくて、走り回っているものではないですか。でもお茶の先生が来て、お茶の授業が始まると、みんな手をついて「よろしくお願いします!」「ありがとうございます!」ってみんなぴったり挨拶できるんです。こういう間が合うのは日本人だけなんですよ。

– 確かにそういう場では子どもたちは、きちっとしているイメージがありますね。

場さえ作れば、子どもたちは知りたいことばかりなんです。でも、どこへ行けばいいのか、誰に聴けばいいのか分からない。

だからこそ、僕らはこれからも学びの場を作っていきたいなと。まぁ、これって僕らも楽しいからやっているんですけどね。

今の常識が変わる、これからの時代のこと

– 「和の心」として、今後やっていきたいことってなんでしょう?

「日本のことをもっと知りたい!」っていう人は世界中たくさんいるので、そういう人たちとのご縁を頂き、一緒に日本のことを広めていければなと思っています。

お寺を通して日本文化を発信していくことも重要ですが、地域の素晴らしい特産品なども一緒に発信していきたいですね。そうすれば、地域も栄えていくでしょうし。

ゆくゆくは、お寺を国際会議の場にしたいとも思っています。

– 国際会議……?

はい。今は「欲しいから買う、売れるから作る」という原理でお金が動いていますけど、これからは「みんなが喜ぶために何をするか」という考えからお金が使われるようになってくると思うんです。

それで世界中のお金持ちが集まって、「世界を良くするためにはどうしたらいいだろう?」って考える場が生まれるだろうと。そういうことをお寺でやりたいのです。

– 確かに、既にそういうお金の使われ方ってありますよね。

多くの大金持ちが寄付という形で社会貢献をするようになっていますよね。成功してお金を持ってても、満たされない気持ちがあるのではないでしょうか。そういうことを感じる人は多くなっていくはずだから、お寺をそのネットワークの起点にしたいなと。

– 葉室さん個人として、何かしたいことってありますか?

僕はずっと「子ども」でありたいですね。

– 子どもですか……?

大人になると常識に囚われてしまうではないですか。でも、今の常識ってずっと変わらずにあるわけではない。だから、子どもみたいに常識に囚われず、興味のあることや楽しいことを素直に追い求めていきたいなって。それが一番幸せだと思うから。

当たり前にあるからこそ、気付けないものがある。でも、その当たり前だと思っていることは、実は当たり前ではないのかもしれない。

葉室さんの話を聞いていて、今更に思い出したのはそんな「当たり前」のこと。私たちはついついそのことを忘れ、いろんなものを失ってしまいます。

消えてしまいそうな日本の伝統文化、忘れてしまいそうな「ありがとう」という感謝の気持ち。子どものような好奇心を持って、そんな当たり前ではないものに気付いていければ、誰でも日本に誇りを持てるようになるのかもしれません。

(2017/06/21 16:45 一部文言修正を行いました)

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1994年生まれ、大阪出身。DATEMAKI編集長。複数のメディアの立ち上げに関わりながら、ライター・エディターとして活動している。「個の夢が否定されず、それぞれの人が自分らしく活きられる世界」を。